君に決して
伝えることの出来ない気持ちを
僕が抱いていると君が知ったら
君は一体
どんな顔をするのかな
僕に誓う
湿った涼しい夜風が頬を撫でる
窓からは黄色い満月が
俺とあいつがいる
この部屋を静かに照らしていた
バシッ…
何かを叩いたような
甲高い音が部屋の中で響いた
「…最低」
俺は痛みが走った左頬を撫でた
「痛って…」
「タカシ
ホント最低…!」
あいつは涙ぐみながら俺にそう言った
「…だからちげー
つってんだろ」
舌打ち混ざりに俺は言った
ズキンと口の中で
血の味がした
_唇切れてるし…
それに気付くと俺は
もう一つ舌打ちを打った
「違くない…!だって私見たんだから、
昨日女の人と歩いてたとこ!」
「だからそんなの人違いだっつの…」
「浮気しないって…信じてたのに…!」
「だから違うっつってんだろ!」
いつまでも続く
この論争に嫌気がさす
でも
こいつが言うことは合っている
俺は幾度となく
こいつじゃない別の女を抱いたことがある
それも何人も
今までバレなかったことが不思議な位だ
だけど俺は
その女達を別に本気で愛したわけではないし
これからもずっと
関係を続けようとは心底思っていない
その場その日限りの関係
だから俺が今こんなに責められるのも
納得いかなかった
責任を感じてなどいないからだ
「もう…いい」
しばらくするとあいつは下向き加減でそう言った
「もう…いい」
あいつは疲れ切った様な声で言った
「おい…」
「さよなら」
部屋のドアが大きな音をたてて閉まった
あいつのヒールの音が遠くに消えていく
俺は追いかけなかった
あいつにも非があると思っていたから
そんな事を思いながら
俺は部屋で一人煙草を吹かしていた
しばらくすると俺の携帯が鳴った
どうせあいつからだろう
そう思い、着信も見ず
電話に出た
「もしもし」
「…俺
カズヤだけど」
「んだよ、お前かよ」
あいつじゃない男の声に
俺はなぜかため息が漏れた
カズヤとは俺の幼なじみだ
そして俺の彼女の
あいつとも仲がいい
俺とあいつが付き合い出すまで
普通に俺たち三人で仲が良かった
今でもよく遊んだり
一緒に何処かに出かけにいくくらいに
「で、何の用だよ」
「…あいつの事に決まってんだろ」
俺はその言葉に苛立ちを覚えた
「…あっそ」
「お前………
あいつ泣かせてどうすんだよ…!
なんで追いかけてやらねーんだよ!」
カズヤの怒声がこの静かな部屋に
携帯を通して響いた
「…うっせーな…、
てめぇには関係ねーだろ!?」
息を荒くして俺は言った
「……………分かった」
カズヤは静かに呟いた
「お前があいつを傷つけることしかできないなら…
あいつは俺がもらう」
変な意地が有った俺は
あいつを呼び止めることもせず
涙も拭ってあげる事も出来ず
あいつの大切さに気付かない俺は
「勝手にしろ」
この時俺はそう答えた
答えてしまった…
口の中に
血の味が広がる
俺は切れた唇の傷を噛みしめていた
朝
窓の隙間から
眩しい光が俺を照らした
俺は知らないうちに
ソファで寝てしまっていたようだ
「朝か…」
寝癖のついた頭を触りながら
俺は立ち上がった
ぐいっと背伸びをする
「…おーい、朝めし…」
人気のないこの部屋に俺ははっとした
「…ち、」
あいつのいない寂しさか
それともただの苛立ちだったのか分からないが
俺はまた一つ舌打ちを打った
ふとテーブルに目を向ける
そこには見慣れた字で書かれた手紙があった
“タカシへ”
ホントはこんな手紙など
置いていって
欲しくはなかった…
“タカシが寝ている間に
荷物を取りに来ました
まだ残ってる私の荷物は捨てて構いません
そして
今まで長い間ありがとね
こんな私と一緒にいてくれて本当に
ありがとう
ホントはね、昨日
私が出て行ったときタカシに追いかけてきて欲しかった
だけどきっとそんなのは一方的な私の好きだけじゃ
無理な事なんだよね”
手紙をもつ俺の手が
微かに震える
“いつからこうなっちゃったのか
ツラいから分かりたくもないけど
タカシ、私ね
私は本当に貴方が大好きでした
貴方は偽りでも
私は貴方が大好きでした
今までありがとう
さよなら”
「…っ」
手紙の最後に書いてあったあいつの
名前を指でなぞった
その字は滲んでいた…
「あいつ、
泣きながらこんな手紙…書いてんじゃねーよ…」
_ツラいなら
書くなよ
ホントはさよならなんて言いたくねーなら
書くなよ
こんな手紙残して行くなよ
一人だけ最後に寝てる俺の顔見て
さよならなんてすんなよ
俺は最後にお前の泣き顔しか
見てねーんだぞ
笑えよ…
カズヤじゃなくて
俺の前で
笑っていてくれよ…
俺は何度もその手紙を読み返した
泣きながら何度も何度も読み返した
あいつは一方的な私の好き
なんて言っていたけど
そんなの大嘘だ
あいつは俺を愛していて
そして
俺もまた
あいつを愛していたから
変な意地とプライド
それらが邪魔して追いかけられなかったあの夜
俺はこれから一生後悔するだろう
でもそれが俺の罰だ
愛している人を傷つけた俺への罰
その罰ならいくらでも
受ける覚悟はある
だけど
だけど頼むから
俺からあいつを
奪わないでくれ
あいつを失ってから
あいつの大切さに
気付いた
俺は馬鹿野郎だ
君をこんなに
愛していたのに
しばらくして
あいつはカズヤとつきあい始めた
だけれど俺たちは大人だからだろうか
関係がギコチナくなることはなかった
ただそれはカズヤとだけで
あいつと会うことはなかった
「おいカズヤ今日飲みに行こうぜ」
「あー悪ぃ、今日は帰るわ」
「はあ?なんでだよーなんかあんのか?」
「ちがくて…あいつがいっから」
「…あーそっか、じゃあ早く帰ってやれな」
「…悪ぃ」
カズヤはあいつのために寄り道などしないで
家に帰るのだ
俺はあいつのためにそんな努力をしたことが
あっただろうか
あいつのためにどうにかしようとした事があっただろうか
でもどれも全て
もう遅いのだ
時々カズヤは時間があるときあいつに
電話をする
他愛のない話をしているのだろう
携帯越しに聞こえたあいつの声は
明るく笑っていて
俺の心を締め付けた
その携帯越しに会話をしていたのは今まで俺だったのに…
そう思っても全て遅い
遅いんだ…
君はいつか
ホントに誰かのものになって
そして結ばれて
違う誰かとの子供を産んで
俺とのこともいつか忘れて
幸せに暮らすんだろう
なあ、俺は
お前の嫌いになりかたを
忘れちまったよ
どうせなら
さよならするときに
教えてくれれば良かったのに
だから俺は
君を忘れはしないだろう
君との思い出を
忘れはしないだろう
君の愛し方も
忘れはしないだろう…
カズヤの薬指に指輪がハメられたのはそれから
二年後の事だった
結婚式の日、俺はあの日以来初めてあいつを見た
ウェディングドレスを着たあいつはとても綺麗で
俺がちっぽけに見えて
あいつの隣にたっているのは
どうして俺ではないのだろう
そう思った
式の最中のあいつはとても幸せそうで
カズヤと目が合う度にあいつはハニカんで笑って見せた
何度も隣にいるのを自分とダブらせてみて
幸せを錯覚してみて、すぐに虚しくなった
「…タカシ!」
しばらくして式が終わるとあいつが俺の元へやってきた
二年のブランクは大きくて
まともにあいつを見れそうにもなかった
だけれどそんな俺を知られたくなくて
冷静なフリを装った
「…よ、久しぶりだな」
「うん…久しぶり」
「つかよかったな、おめでとう
そのドレスよく似合ってるぞ」
「え、そ、そうかな…
ありがとう」
そう言うとあいつは式でカズヤに見せたあの笑顔で
恥ずかしそうに俺に笑いかけた
ああ、俺には
こいつを幸せにする事は
出来ないんだ…
改めて身に染みて
叫びだしそうになった
「…俺は」
「…え」
「俺はお前を愛してた」
あいつにどう伝わったか
俺には分からない
むしろ正しいことだとも
思わない
だけどあの日から
動かない俺の時計の針を動かすためには
あの日言えなかった事を言わなきゃいけない
そんな気がした
「タカ…」
「お前は一方的な好きって言ってたけど
そんな事ない」
力強く拳を握った
「俺はあの時も昔もお前だけを愛してた
だから傷つけたことを謝る
ごめん」
俺は深く頭を下げた
なあ、
これでお前も幸せになれるかな
「…ありがとう」
あいつは静かに微笑みながら
俺にそう言った
「タカシの気持ちを聞けてホントに嬉しい
私は幸せだよ…」
俺はその言葉を聞いて下げていた頭を
再びあげた
「だから…タカシも幸せになってね」
あいつは俺の手を強く握ってきた
その手は温かくて
幸せを掴んだ手なのだと改めて感じた
そうか…
あいつは今、
あの過去から解放されたのか
俺はあいつの手を力強く握り返した
「…バーカ!
言われなくても幸せになってやるよ」
「…もう!またそういういい方して!」
そういうと俺たちは互いに笑いあった
「…あ!私そろそろ行くね
カズヤが待ってるから」
「…そうだな」
「じゃあ、またね」
あいつはまた
静かに微笑んだ
「おう」
白いドレスの少しすくい上げて
あいつはカズヤのもとへ
歩いていった
なあ、
俺はきっと
間違えていなかっただろう
君に
あの時の気持ちを
今思っていたことを
伝えられてよかった
だけどもう一つ
君に
謝ることがあるんだ
俺は
最後に嘘をついた
ホントは
“昔もあの時も”
じゃなくて
“今も昔も”
君を愛してるんだ
傷つくだろうから
決して君に
伝えられない
この想いを
君との全てを
思い出にしたくなくて
思い返しては
胸が苦しくなるんだ
俺は胸張り裂けるような
そんな想いが心に満ちあふれていった
「はは…たく、良い顔しやがって…あいつ…」
俺はスーツのズボンに手をいれると、独り言を呟いていた
「幸せになって…とか、
お前に言われたく…ねえっつの…っ…」
知らないうちに
俺は涙を流していた
「………っくそ…!」
あいつは俺を愛してた
俺もあいつを愛してた
それだけのことなのに
俺たちはなんでこんなにも反発をしていたのだろう
だけれど君が幸せになれるならそれでいい
なんて台詞は、俺には決して似合わないだろう
だけれど それでも
君を幸せにするのは俺が良かった
君の言葉が心に染みて痛いんだ
こんな俺に
幸せなんて
やってくるのだろうか
君を幸せに出来なかった俺に
幸せなんて訪れるのだろうか
いままでもこれからも
そんな事は分からない
なあ、俺は
お前の嫌いになりかたを
忘れちまったよ
どうせなら
さよならするときに
教えてくれれば良かったのに
だから俺は
君を忘れはしないだろう
君との思い出を
忘れはしないだろう
君の愛し方も
忘れはしないだろう…
君はいつか
ホントに誰かのものになって
そして結ばれて
違う誰かとの子供を産んで
俺とのこともいつか忘れて
幸せに暮らすんだろう
俺が例えば他の人と結ばれたとして
二人の間に命が宿ったとして
その中にもきっと
君の遺伝子がそっと
紛れ込んでいるだろう
君に決して
伝えることの出来ない気持ちを
僕が抱いていると君が知ったら
君は一体
どんな顔をするのかな
だけどそんな事は
君を傷つけるだけだから
だけど それでも
俺はやっぱり君を愛しているから
君の隣にいるのは
幸せにするのは俺が良かった
でも俺は思うんだ
こんなに君を愛した俺と
俺を愛してくれた君
いつか生まれ変わったら
遠い彼方の日に
きっとまた出逢えると
そう思ってるんだ
その時には
俺が君を幸せにするよ
それまで俺は
その日が来るまで俺は
君を愛し続けることを
誓う
-END-
***アトガキ***
元にした曲はRADWIMPSの「me me she」という歌です。
悲しい曲です。
別れの歌が好きな人は聞いてみてください。
そしてこの小説のモデルは
お笑い芸人ライセンスを元にしてます。
タカシ→井本貴史
カズヤ→藤原一裕
ドリームとかじゃなくて、ただこういう小説をかきたくて
(ライセンスのお二人と合わせたかったという理由もあるけど)
というだけで書いたので関西弁ではないです。
2008/8/8